火造りを終えた丸玄能180匁 |
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・一般的な玄能、金槌は鋼(炭素鋼)で成形され、熱処理(調質)により必要な硬度に加工されている。鉄で出来ていると誤解されているが、鉄は熱処理を施しても硬くならない。
(鉄:純鉄に0.03%未満の炭素が合金されたもの。)
(鋼:純鉄に0.03%から1.7%の炭素が合金されたもの。ちなみにそれより多くの炭素を合金したものは鋳鉄、いわゆるイモノである。)
(熱処理:金属材料を加熱冷却して組織を変え、所要の目的に適する性質にする作業。厳密には違うが一般的には「焼き入れ」と同意。) |
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・鑿を叩くには主に玄能を使い、その両端は同じ大きさである。 |
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・玄能の頭の一端は平らで、こちらでのみを叩き釘を打ち込む。そして他の一端はほんのりと中高になっており、こちらでほぼ打ち込んだ釘を最後に叩きしめる。但し、鑿叩き専用のものは両端が平らに造られている。 |
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・釘を打つには金槌を使い、その一端は大きく、こちらで釘を打ち込む。そして他の一端は細くとがっており、こちらでほぼ打ち込んだ釘を叩きしめたり狭い部分の釘打ちを行う。 |
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・鑿や釘の大きさ、作業の種類、使用頻度及び経験等により、必要とされる道具の性能は異なる。したがって、よい道具は対面販売が理想である。 |
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・頭(形状・重量・ひつの形状と大きさ)と柄(握りの形状・太さ・長さ・材質)のバランスが非常に重要であり、これが玄能・金槌の命ともいえる。
(ひつ:柄を仕込むために頭に明けてある穴のこと。) |
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・理想的な焼き入れ状態は、玄能の口の周囲が硬く焼き入れされ、真ん中は少し柔らかめになっている状態であり、またひつ(穴)の周辺は僅かに焼きが入ったようになっている。ひつの周囲まで硬く焼きが入っていると、柄を仕込んだときに穴の角から割れるおそれがある。 |
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・本職は頭だけを買い求め、自分(体格・体力・作業の種類)に合った木柄を仕込む。若しくは太めの木柄を仕込んだものを買い求め、それを削って自分に合わせて使う。 |
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・玄能の柄の長さは頭を握って肘の内側につけた長さがよい。また柄の断面は片側をそぎ落とした桃の実型が良いとされている。 |
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火造り用の赤熱したコークス |
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・火造りで造られた物はひつの中程を狭く造ることができ、仕込んだ木柄が非常に抜けにくくなっている。そのためしっかりと木柄を仕込んだ場合には、くさび等の抜け止めをする必要がない。
但し、ひつの中程を狭く造るといっても極力ストレートに近いほうが柄が抜けにくく、腕の良い職人の造ったものでは、目視で確認できないほどストレートに明けられている。
(火造り:材料に熱を加えハンマーとわずかな鍛造工具のみを使って、勘を頼りに全て手作業にて成形する鍛造方法。姿の良い品物を造るには熟練を要する。)
(鍛造:金属を高温に加熱して柔らかくし、ハンマーや金型などで圧力を加えて変形させて造る方法。) |
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・同じ作業をする場合でも地域によって使われるものに違いがみられる。
例)釘を打つ場合
北海道:舟手槌(北海道型)
東 北:舟手槌(岩国型)
関 東:角先切槌
中 部:先切槌
関 西:舟手槌(岩国型)
中 国:舟手槌(岩国型)
九 州:下腹槌、九州型 |
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・打撃面硬度は、素人の釘打ち作業においては柔らかめがすべらずに使いやすいとされているが、それではまくれてきて使い物にならない。
一般的には硬すぎるとすべって使いにくくなるといわれているが、滑るのは硬度の問題と言うより、焼き入れ方法、打撃面の形状や角度,そして使い手の技量が深く関わっている。ちなみに腕の良い職人の造った優秀なものでは、ずいぶんと硬度は高くても滑らず非常に使いやすく出来ている。 |
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・玄能では口張り付き(鋼付け)が最高級とされている。これは鉄(良いものでは日本鉄を折り返したもの)の両端に鋼(通常は高炭素鋼)を鍛接して造られたものである。ただしこれは鑿叩き専用と考えていただきたい。
一方性能面では全鋼製もそれに劣らないばかりか、より堅牢でありかつ安価に製造できるため、こちらのほうが玄能としては理想的ともいえる。
(日本鉄:鉄の中でもきわめて炭素量の少ない柔らかなもの。たたら製鉄にて作られる。)
(鍛接:違った材質のものを鍛造によって接着する作業。) |
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・焼き入れの方法にも様々あり、それぞれに長所と短所がある。
全焼き(まるやき)
頭部全体に焼きが入れてあり、側面を使用しての横打ちが行える。但し強く焼き入れするとひつ穴の角から割れやすいため、あまり硬くできない。比較的安価な物に多い。
部分焼き
打撃面のみに焼きが入れてあり、穴の周辺は比較的柔らかい。口張り付き玄能も自ずからこれに該当する。これらは横打ちには不向きであるが、そもそも横打ちを邪道ととらえる人も多い。 |
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完成した80匁四角玄能
かけ焼き(部分焼き)してあります |
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参考例)玄能・金槌への木柄の仕込み方
1.木柄を入れる方(銘のある側)のひつの周囲を鑢で面取りする。
2.頭に木柄を入れて柄尻を叩いて、1日目は穴深さの80%まで入れる。それ以上入るようでは緩い。また仕込む前に仕込む部分の木柄に軽く油を拭くと仕込みやすくなる。
3.2日目は穴深さの90%まで。
4.3日目で100%まで入れて完成。(・玄能柄の仕込み方を参照のこと。)
基本は『穴より大きな柄を仕込む』ことにあるが、上記意外でも工夫を凝らした様々な仕込み方がある。 |
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参考例)玄能・金槌に仕込んだ木柄の緩みへの対応。
いかに木柄をかたく仕込んでも多少は緩む場合がある。この時又叩くのも良いが、一度木柄を抜いて紙を隙間に詰めると良い。くさびを打つ方法もあるが、巧く打たないと木柄の強度をおとす場合があり勧められない。 |
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参考)木柄に使われる材木例
・うつぎ ・うしころし ・樫 ・榊 ・ぐみ ・つげ ・桜
・梅 ・ヒッコリー ・あおだも
以上のようにねばり強い木が向いている。
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